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305  「裸のキッス」 サミュエル・フラー、この男、再研究の価値あり

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ササポンのブログ


本国では
B級の映画を撮る
B級監督と見なしていたのに、
フランスで評価されたからって
いきなり
一流監督の評価を与えられた監督たち。

ハワード・ホークス
イーストウッド
そして

サミュエル・フラー

どうもこういうのは
好きではない。

そんな評価を見て
いきなり
日本での扱いも代わる。

いつから
イーストウッドは人間を描くヒューマンな監督になったのか?

いつから
ホークスは、歴史に名を残す巨匠になったのか?

その点、
サミュエル・フラーは
アメリカの普通の人には
日本では
おもろい変な映画を撮る、
へんなおじさん・・である。

らいと、かめら、アクション!!の代わりに
拳銃をぶっぱなす、おっさんである。

しかし
しかしであります
今回
この「裸のキッス」を
再見して驚いた。
はい、
驚きましたねぇ。

この監督、
アーティストだった。

娯楽とアートを
見事に融合させた
本物の映画作家だった。

そりゃ、
ゴダールやヴェンダースや
カウリスマキが
驚嘆するわけじゃん。

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この映画の物語は
ジム・トンプソンなどに代表される
典型的なノワール(暗黒)小説だ。
粗悪な紙に刷られたペイパーバック・ストーリーだ。

暗黒社会の歪みと
普通の田舎町に潜む
偽善、嫌悪、差別、
そして
暴力。

それは
フラーが若い頃に培った知識。

犯罪レポーターとして現実の人間の闇の部分を知り
パルプ小説のゴーストライターとして
それを物語に、
つまり
娯楽に変える術を知る。

その技術が
ある意味、頂点に達したのが
この「裸のキッス」だ。

とにかく
衝撃的な冒頭から
物語の語り部としての
フラーの手腕が冴え渡る。

このシーンで
この女が置かれた過酷な状況と
そこからの決死の脱出の過程が
ほんの数分で
どんな観客にも理解させることができる。
それも極めて
視覚的なイメージで。

こんな凄いシーンは
偶然に撮られたと思いたい。
凡庸な監督が、
現場のテンションで撮ってしまったシーンと思いたい。

でも、
そうではなく、
このシーンはちゃんと計算された
用意周到にフラー監督の頭の中で作られたシーンであることが
この映画を見終わった後、感じる。

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主人公の女が
ある田舎町に着き、
荷物を持って駅から歩いていくと
乳母車の横で
なわとびをする女の子がふたり。
日常の中にある、平凡な風景の中にある幻想。
まるで悪夢のような・・。

それは
これから起こる出来事を象徴するシーンでありながら
ラストで乳母車だけのシーンを撮ることで
物語全体をも暗示する。

もう
これだけで
ゴダールのような映画おたくは
悲鳴を上げるだろう。

その後に起こる出来事を
処理する手際も
感嘆する。
なんせ
92分の映画だ。

余分なセリフ、風景
役者だけが満足する思い入れたっぷりの
へたくそ演技など入れる暇などない。

そんな隙など
一切ない。

まず
女が勤める身体障害者の子供専門の病院。
ここの撮り方が・・というよりは
照明が、
あまりにも美しい。

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不自然なほどに
薄暗い病院内に
あらゆる角度からの太陽光が差し込む
それは
夜のシーンでも同じ
ブラインド越しの月光が
恐ろしいほどに
美しく室内を照らす。

独立プロでの低予算映画。

フラー監督が常に抱えていたハンディを
自分の哲学を表現するための手段とする。

自分で資金を集めて映画を撮っている人間にとって
これほど
励まされる映画があるだろうか。

しかし
それを習得するために
フラーは
16本の映画を撮っている。

どんな状況にあっても
揺るがない哲学のもとに
作り続けた娯楽映画、そのテクニック。

取調室での
グリフと殺人犯に成り下がった女との
対比の見事さ。

のちに
実相寺昭雄が「ウルトラマン」などでやった
画面半分のアップの横顔と
もう半分に向こう側の人物という構図を
すでにやっている。

物語の構成、
映像、
音楽、

どれを語っても一冊の本になるであろうほどに
豊かな世界が、
92分に詰め込まれたこの芳醇さ。

この計算し尽くされた奇跡の後には
サミュエル・フラーという男が
スタートの代わりに拳銃をぶっ放している。

この、
ただならぬ才気と狂気を持った
サミュエル・フラーという男、
もう一度、
検討、研究する必要あり・・と見た。

へんなおっさん・・という見方は変わらないが・・。

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